[ppt_精神分析入门]
🔹第1章「精神(心)」のとらえ方
Ⅰ. 脳の構造と認知機能(神経科学・生理心理学の観点)
A. 脳・神経系の構造
👉 大脳、小脳、脳幹、神経伝達系など、解剖学的基礎知識。
B. 認知機能と神経基盤
👉 記憶・注意・言語・感情などの認知活動が、どの脳部位と関係しているか。
C. 大脳皮質の機能区分
👉 前頭葉、側頭葉、後頭葉、頭頂葉の働き。例:前頭葉は実行機能を司る。
D. 高次脳機能の研究方法
👉 脳画像技術(fMRI、PET)、神経心理学的アプローチなど。
Ⅱ. 精神(心)の構造と働き(精神分析・臨床心理学の観点)
A. 精神力動理論とその派生理論
👉 フロイトの精神分析に始まる、心の内的葛藤と動的構造に着目する理論群の総称。
B. 深層心理学:欲動論
👉 フロイトの「リビドー(性欲動)」「死の欲動」など、無意識に潜む欲望の力を重視。
C. 自我心理学:自我の防衛機制
👉 アンナ・フロイトなど。自我が不安から自己を守るために働かせる「防衛機制」(否認・投影・抑圧など)を理論化。
D. 自己心理学:関係精神分析
👉 ハインツ・コフートら。自己が重要な他者との関係の中で発達し、心の問題が生じるという視点。
E. 対象関係論
👉 メラニー・クライン、ドナルド・ウィニコットなど。幼少期の重要な「対象(他者)」との関係が心の構造にどう影響するかに注目。
F. 理論の意義と限界,発展
👉 各理論の臨床的意義、時代的背景、ラカンなどへの発展、そして現代心理学との接点などを検討。
🔶 なぜ同じ反応でも「共感」になる時とならない時があるのか?
例:
クライエント「すごく辛かったんです」
セラピスト「すごく辛かったんですね(リフレクション)」
一見「共感的」だが、その言葉が共感として届くか否かには、以下のような**「非言語的・関係的次元」**が関与しています。
✅ 真の「受容・共感・自己一致」が成立する条件
セラピストの態度が本物である(≒自己一致:自分の中での感情や反応とズレていない)
クライエントの文脈・感情の深さに沿った応答になっている
その場に流れている空気・関係性の積み重ねが信頼に満ちている
つまり、
🔸「言葉」そのものではなく、「言葉に乗っている感情」「関係の質」こそが、共感の実質を決める。
🔶 「受容・共感・自己一致」の弊害とは?
この理想的態度が「形式化」「マニュアル化」されると、いくつかのリスクが生じます:
1. 偽の共感・表面的な受容
セラピストが「共感しているふり」「傾聴しているような言葉遣い」だけを模倣することで、クライエントに不気味さや不信感を与える(「なんか、この人、本当は分かってない」)
2. 怒りや否定的感情の回避
「受容しなければならない」という思い込みにより、セラピストがクライエントの攻撃性・混乱・矛盾に対峙できなくなる
3. セラピストの自己喪失
「いい人でいなければならない」というプレッシャーの中で、セラピスト自身の限界や怒り、不安が抑圧され、本当の関係性の対話が阻害される
🔶 「受容・共感しているふり」の弊害
これは臨床の現場で最も危険な態度の一つとも言えます。
🧨 起こること:
クライエントは「感情を理解されていない」という無力感を感じる
セラピストに対する信頼の崩壊
共感されているはずなのに「逆に孤独になる」ようなダブルバインド的体験
⚠️「感情を返してくれているけど、本当はこの人、私のことどうでもいいのでは?」という感覚が生まれると、それは共感ではなく疎外になります。
🧠 精神分析とは?
精神分析とは、単なる理論体系や治療技法ではなく、分析者と被分析者の関係性を通して「こころ」をともに見つめていく、生きた営みです。
🔸 1. 主観的な体験が中心
精神分析が扱うのは、外に見える行動ではなく、内なる感情・記憶・欲望・葛藤など、主観的体験の世界。
クライエントが語る夢・空想・言い間違い・沈黙など、一見無意味にも思える現象にこそ、無意識の真実が表れると考える。
🔸 2. 相互関係のダイナミズム
治療関係は単なる一方向的な治療ではなく、分析者・被分析者双方のこころの動きが絡み合う場。
転移・逆転移、投影・同一化などを通じて、無意識の構造が露出し、変容の契機となる。
→ 治療の場は、両者が影響を及ぼし合う“相互主体的”な空間。
🔸 3. 仮説としての理論
精神分析理論は、経験的観察に基づく仮説の積み重ね。
クライエントとの関係の中で湧き上がる反応・現象に名前をつけ、理解と伝達の枠組みを与えようとする試み。
→ だがあくまで仮説であり、絶対的な真理ではない。
🔸 4. 理論は未完成で日進月歩
フロイト以来、対象関係論・自我心理学・ラカン派など、多様な理論が生まれ続けている。
理論は状況・時代・文化に応じて変化し続けており、「最終的な理論」などは存在しない。
🔸 5. 理論だけに閉じると本質を見失う
精神分析を「理論的な面だけ」でとらえてしまうと、実際の臨床体験や人との生々しい関わりといった本質を見失ってしまう。
学問的興味だけでは足りず、**関わりの場に身を晒すこと(自ら分析を受けることも含め)**が求められる。
🔸 6. 藤山直樹の言葉:「理論は“カス”」
臨床家・藤山直樹氏は、「理論は“カス”に過ぎない」と述べる。
この言葉は、「**大切なのは“実際にそこで起こっている出来事”**であり、理論はそれを後から説明するための道具に過ぎない」という臨床家としての姿勢を表す。
🌀 精神分析における理論と実践のダイナミズム
◉ 理論→臨床→理論へ:往復運動
精神分析は、ある視点(概念・仮説・理論)のもとで臨床実践を行い、そこで得られた生きた経験をもとに再度理論化を図り、それをまた現場に還元して検討するという、循環的・生成的なプロセスを本質としています。
🔁 循環プロセスの例:
概念にもとづいて臨床実践を行う
現場での経験を通して新たな臨床的事実が浮かび上がる
学会・スーパービジョン・カンファレンスで整理・検討
新たな理論的仮説として概念化
臨床に戻してさらに検証・精緻化
この繰り返しにより、精神分析の概念は単なる固定的な知識ではなく、**現場から生まれ、現場に根差した「生きた理論」**として育っていきます。
🧭 「地図」と「航海」:理論の限界と本質
このプロセスを理解する上で重要なのが、理論=地図、臨床=航海という比喩です。
地図(=理論)は現場を見通すための手がかりとなる
しかし、実際の海(臨床)には嵐も潮の流れもあり、地図通りにはいかない
地図に頼りすぎると、生きた人間そのものを見失う
⚠️ 理論に当てはめて「わかった気」になることは、実は人間を“型にはめる”ことにもなりかねない
📚 エディプス・コンプレックス:枠組みの一例
たとえば有名な「エディプス・コンプレックス」も、個別の臨床の中から浮かび上がった普遍性のある仮説的枠組みの一つです。
異性の親への欲望と、同性の親への対抗意識という力動
だがこれは絶対的な公式ではなく、個々の文化・家族構造・無意識の特異性により、**多様に変奏される「型」**でしかない
🧩 エクスペリエンス・ベースド vs. エビデンス・ベースド
❌ エビデンス・ベースド(EBP)の限界
数値化・統計化された指標で「効果」や「変化」を測る
しかし精神分析が扱うのは、「語りになる前の体験」「象徴化されていない苦しみ」
✅ エクスペリエンス・ベースド(体験重視)
数値には還元されない「感じ」「曖昧さ」「沈黙」「夢」なども重要な臨床的素材
精神分析は、物語にならないもの、語られないものをも含めて「人間存在の全体」を扱おうとする
🧠 結論:理論は道具であり、人間そのものではない
精神分析において理論とは、**生きた経験に意味を与えるための“仮の枠組み”**に過ぎません。それは決して「人間そのもの」ではなく、むしろ:
人間存在という広大で深淵な“海”を渡るための、一時的な羅針盤にすぎない。
🧪 エビデンス・ベースド(Evidence-Based Practice:EBP)
◎ 定義
科学的根拠(エビデンス)にもとづいて、最も効果が実証された方法を用いて臨床実践を行う立場。
🌀 エクスペリエンス・ベースド(Experience-Based Practice)
◎ 定義
実際の体験(臨床経験)や関係性の中での気づき・意味を重視し、主観的・質的な理解にもとづいて臨床を行う立場。
■ 力動的(Dynamic)視点の意味:
人と人との関係の中で人は変わるという前提に立ち、
単なる症状や病名ではなく、「その人自身」を理解・支援しようとするアプローチ。
治療とは、患者との「心の交流」(対話・関係)を通して進行していく、という発想。
■ この視点の目的:
「病気の人」ではなく、「病気を抱える一人の人間」として理解する。
その人の内面世界(欲望・葛藤・防衛など)に寄り添う。
治療関係の人間化(personification)=セラピストもまた人として関係するということ。
■ 精神分析的な人間理解の構造
1. 生の矛盾と無理
「死ぬのに生きている」「ひとりでは生きられないのに、ひとりでいられる能力も必要」
→ これは人間の存在に根差した根源的なアンビバレンス(両義性)。人間は不完全で不安定な存在としてとらえられる。
2. リビドーと社会の狭間
フロイト以来の考え方では、人は本能的に「異性と結びつき子を成す」性欲動(リビドー)に動かされるが、同時に社会的規範(道徳・秩序)に従って生きざるを得ない。
そのため、他人との競争や嫉妬、愛と憎しみ、依存と自立の葛藤が生じる。
3. 「裏」の心理=無意識
精神分析は、表に見えている言動・症状の**裏側(無意識)**に潜む真の意味を見ようとする学問。
たとえば「無理」は抑圧となり、夢・症状・過失行為・転移などに現れる。
🧠 1. 人生は喪失とモーニングワークの連続である
温かい子宮、乳房、母のまなざし:これらは最初の安定した対象であり、いわば「原初的な楽園」。
人はそこから引き剥がされることで、自我を形成し、世界へと出ていく。
→ この喪失体験はすべての発達の出発点。その後も人生は、愛する人、若さ、身体、理想、生命…と喪失の連続。
この連続的な喪失に、人はモーニングワーク(喪の作業)で応じる:
喪失を受け入れ、内的に再構成し、次の対象へ移っていく心理的プロセス。
→ ここに精神分析的な成熟の鍵がある。
🛡️ 2. 無理と自我の防衛
喪失や死、限界に直面するたびに、それに耐えるには心の中で何らかの**防衛機制(抑圧、否認、投影など)**が働く。
それは「無理」をなんとかやり過ごすための知恵でもあるが、過剰になれば精神症状となる。
(例:死を否認しすぎる=過剰な不死幻想、逆に死を意識しすぎる=うつ)
🧬 3. 先天的な意味生成の準備性 + 対人関係の痕跡
人は**生物的な意味生成の能力(前言語的な象徴機能)**を持って生まれる。
→ しかし、実際の他者との関係によって、それが形になっていく。フロイトのいうリビドー的対象関係、メラニー・クラインの「部分対象」、ボウルビィの愛着理論、そしてラカンの「想像界・象徴界」などすべて、関係性とその痕跡が人格形成において重要であることを示している。
🔤 4. 象徴化・言語化の必要性
喪失や不安、死への恐れはそのままでは耐えられない。
だからこそ、言語という象徴を通じて整理し、包み込み、意味づけることが必要。
→ 言葉は「心の内面をつなぎとめ、秩序化する道具」。ラカン的には、言語は欲望の構造そのもの。人間は言語の網に捕らわれながら、自分を語ることでしか「自己」を感じられない。
☠️ 5. 死の否認と錯覚
「自分は死なない」と思い込むこと=精神の防衛機制であり、日常を生きるためには必要。
しかしそれが完全な錯覚であることも、どこかで知っていなければならない。
→ このアンビバレンス(両義性)こそが人間存在の条件
🔹 モーニングワークとは?
定義(精神分析的視点)
喪失(大切な人・対象との別れ)に対して、人が悲しみ、受け入れ、失った対象を内的に象徴化・統合しなおすことで、次の段階に進んでいくための心のプロセス。
🔸 フロイトによる定義(『喪とメランコリー』, 1917)
喪(Mourning):愛着対象の死や喪失により、現実と向き合い、少しずつ対象との心理的結びつきを手放していくプロセス。自然な悲しみの経過。
メランコリー(Melancholia):喪失対象を内在化しすぎることで、自我を否定し自己を攻撃し始める病理的な状態(今でいう「うつ病」に近い)。
🔹 モーニングワークの3つの要素
喪失の現実を認識すること
→ 亡くなった/失ったという現実に直面する。痛みを伴う感情を受け止めること
→ 否認や回避ではなく、悲しみ・怒り・罪悪感などを感じきる。対象の記憶を内在化し、再構成すること
→ 外的な対象を手放し、心の中に「象徴的な形」で持つことができるようになる。
→ そして徐々に新たな対象関係(人間関係、関心など)へと移行する。
「対象関係論(Object Relations Theory)」とは、精神分析の中でも特に**人と人との関係(=対象関係)**が人格の発達や心の病の理解において重要であるとする理論体系です。
🔹 基本の考え方
人間の心は、「他者(対象)」との関係の中で発達する。
ここでいう「対象(object)」とは、現実の人物だけでなく、**心の中に内在化された他者像(内的対象)**も含まれる。
特に乳児期からの母子関係など初期の対人関係経験が、心の構造や後の人間関係、自己像に強く影響するとされる
🔹 防衛機制とは?
防衛機制は、不安や葛藤から自我を守るために無意識的に働く心のしくみです。これは誰にでも起きる普遍的な心のプロセスで、精神分析的な人間理解の中核をなします。
🔸 成熟度による分類
✅ 比較的成熟した防衛機制
抑圧(repression):
不快な感情・記憶・衝動などを無意識に押し込める。
社会的に適応的な行動が可能な場合が多い。
例:子どもの頃のトラウマを思い出せないが、行動に影響が出る。
❌ 未熟な防衛機制
分裂(splitting):
物事を「全善」か「全悪」として切り離す。
例:「あの人は完璧/最低」など両極端な対人評価。
否認(denial):
現実の一部を認めない。
例:病気の診断を受けたのに「私は健康だ」と思い込む。
投影同一化(projective identification):
自分の受け入れがたい感情を他者に「投げつけ」、その反応に巻き込まれていく。
例:自分の怒りを相手に投げ、相手が怒ることで「あいつは怒ってる」と確信する。
🔹 共通点と影響
すべて無意識的に起こる。
自分の心の一部を「隠したり」「他人のせいにしたり」しても、完全には分離できず、やがて人間関係や行動に影響が出る。
それによって生じる心の歪みや苦しさが精神症状や不適応行動の原因になる。
🔸 心的決定論
これはフロイト的視点で、「偶然はない、心の中のすべてに意味と理由がある」という前提です。たとえ無自覚でも、すべての言動・感情には無意識レベルの動機づけがあるという考えです。
🔺 葛藤の三角形モデルとは?
精神分析的心理療法や短期力動的心理療法(ISTDPなど)で用いられるモデルで、人の内的な葛藤や症状の背景を構造的に理解するための枠組みです。
■ モデルの三辺:
欲動(感情・本当の気持ち)
本来の自然な感情。例:親密になりたい、怒りたい、泣きたい。
しかし、過去の経験から、それを素直に表現することが難しくなる。
不安(あるいは抑うつや羞恥などの不快感)
欲動を表現したときに予測される否定的な結果(怒られる、嫌われる、見捨てられるなど)に対して生じる心の反応。
防衛
その不安や不快から自分を守るための無意識的な行動や反応。
例:回避、否認、皮肉、過剰な笑い、引きこもり、過活動など。
🔁 例の整理:
「私は、良い関係の中で、本当は○○したい(人と親密に交流したい、安心して怒りたいなど)のだけど、悪い関係が生じて、△△になるのが不安(不快)で、それを避けるために、防衛して□□する」
▶ 具体例で見る:
欲動(○○):本当は相手と親しくなりたい(愛着欲求)
不安(△△):近づくと傷つけられる、拒絶される不安(過去の関係性の影響)
防衛(□□):相手と距離を取り、自分から壁を作る(回避的防衛)
このモデルを用いることで、「なぜこの人は人を避けているのか?」という表面的な行動の背後にある感情や恐れ、過去の人間関係の記憶が見えてきます。
🔄 治療的意義
防衛をやさしく見破り、解除できると、その奥にある「本来の気持ち」が現れてきて、クライエントの生き方が柔軟になっていく。
「見捨てられるのが怖いから近づけない」という構造を自分で気づけるようになると、「本当は近づきたい」という欲動の回復へとつながります
🔺「人の三角形」モデルとは?
このモデルは、以下の3つの関係の層が「いま・ここ」での治療関係に重なり合って展開されている、という精神分析的な理解を示しています。
1. いま・ここでの治療関係(転移)
クライアントがセラピストに対して抱く感情・反応のこと。
しばしば無意識的に、セラピストを過去の重要な他者(親など)と重ね合わせて体験する。
例:「セラピストが黙っていると、自分を拒絶している気がする」(実際には拒絶していなくても)
2. 現実の人間関係
現在、クライアントが実際にかかわっている家族、友人、恋人、職場などの対人関係。
ここでの葛藤やパターンが、治療場面でも似たように再現されることがある(パラレルプロセス)。
3. 過去の体験(親など)
幼少期などに形成された原初的な対人関係の記憶や情動体験。
特に、母親・父親との関係が重要視される。
ここでの体験が、後の人間関係や自己像に影響を与える。
🎯 セラピーでの意義
この「人の三角形」構造をセラピストが意識することで、
クライアントがなぜ今この反応をしているのか、
それが現在の人間関係や過去の体験とどうつながっているのかを見立て、
安全な治療関係の中で「繰り返し」ではなく「再体験・再構成」として扱うことができる。
🧠 関連するキーワード
転移:過去の感情がセラピストに向けられること
反転移:セラピスト側の反応。患者の転移に巻き込まれて生じる感情
再演(reenactment):過去の体験が、治療関係の中で繰り返されること
治療構造:治療関係を支える枠組み(時間、空間、契約など)
🔍 内容の要点:
クライアントは、セラピストに**「厳しい父親像」を投影**している(=転移)。
セラピストはその投影に無意識的に巻き込まれ、怒りの感情を抱いてしまう(=逆転移)。
しかしセラピストはそれを「自分のものではない怒りかもしれない」と気づく。
怒りを表に出さず(行動化せず)、自分の内で咀嚼して保ち、冷静に観察。
最終的に「なぜこの場面でこういう感情が生じたのか」を、クライアントの過去の体験と結びつけて解釈。
🔍 要点の整理と解釈
✅ 1. 「再演」の場としての治療関係
クライアントは、自分でも無自覚な過去の対人パターン(転移)をセラピストとの関係で再演します。
これは、クライアントが長年抱えてきた無理・葛藤・防衛パターンを、「今ここ」でリアルに再び感じ、体験し直すことを意味します。
✅ 2. 「修正情動体験」
再演のなかで、予想に反して、セラピストが過去の他者とは違う反応(怒らない、見捨てない、共にいる)をすることで、クライアントは驚き、そこに感情的な揺らぎが生じます。
これが、古い記憶や防衛の枠組みを**「書き換える」チャンス(=修正情動体験)**になります。
✅ 3. 治療空間の意義
治療関係は「構造化された人間関係」です。自由でありながらも、安全で、限界や枠組みがしっかりある関係。
その中で、クライアントは無理に押し込めてきた自分自身と出会い直し、それを味わい、考え直し、言語化できるようになります。
このプロセスが「自己との出会い直し(self-encounter)」であり、「自己物語の再構築」に繋がります
🧠 転移抵抗・一次疾病利得・反復強迫とは?
🔹 1. 転移抵抗とは?
クライアントが治療関係において過去の重要な対人関係を無意識に再演(転移)する際、そのパターンを手放したくない・変えたくないという無意識的な抵抗が起きること。
特に、セラピストに対して敵意や恐れを感じるような「陰性転移」が現れると、治療の進展にブレーキがかかる(例:遅刻、無言、攻撃的態度など)。
🔹 2. 一次疾病利得とは?
精神症状や不適応な行動が、**苦しいけれどもある意味“役に立ってしまっている”**という逆説的な現象。
例:不安が強くて外出できない人が、同時に「外の世界に行かなくて済む」という安心感を得ている。
→ これを手放すことは、「心の安定装置の喪失」となるため、強い抵抗が生じる。
🔹 3. 反復強迫(repetition compulsion)
人は過去に傷ついた体験や、未解決の葛藤を無意識に繰り返してしまう傾向がある。
自ら進んで傷つくような状況を選び、「また同じことになった」となる。
これは、「今度こそうまくいくかも」という幻想的希望や、「何かがわかるはずだ」という無意識の衝動に基づいている。
🔍 症状の奥にあるメカニズム
■ 表層の行動:
手が汚いと思い、何度も手を洗う。
洗っても満足できず、繰り返す。
■ 潜在的な意味(象徴):
実際に汚れているのは手ではなく、**「心が汚れている(と思ってしまう)」**という無意識の罪悪感や恥の感情。
■ 無意識の防衛:
自分の中にある「攻撃性」「性衝動」「禁忌の願望」などといった心の“汚れ”を直視することは耐えがたい不快や不安を引き起こす。
そこで、それを「手の汚れ」という具体的な対象に置き換え(=象徴化された防衛)、洗うという行為で「心の浄化」を無意識的に代替しようとする。
🛡 これは「一次疾病利得」でもある
苦しい症状ではあるものの、それによって本当の心の葛藤やトラウマに目を向けずに済んでいる。
だからこそ、症状がなかなか消えない、消したくないという抵抗が生まれる。
🔄 症状の「機能」=一次疾病利得
表面上はとても苦しいけれど、
「子どもを手元から離せない」という行動は、実は「子どもがいなくなればいい」という感情から自分を守るための防衛。
症状に意識が占領されていれば、心の奥にある罪悪感・葛藤に触れずに済む。
このように、症状には「自分を守る側面(一次疾病利得)」があるため、簡単には手放せません。
🔄 行動化(Acting Out)
定義:
本来は言語化されるべき感情や葛藤を、行動で表現してしまうこと。
無意識的であり、本人は「なぜそうしたのか」を自覚していないことが多い。
🧪 例
セラピストに怒りを感じたが、それを言葉にせず、帰宅後に家族に八つ当たりする。
治療に遅刻する、突然面接を休む、沈黙を続ける → 怒りや反発の非言語的表現。
自傷や摂食障害など、別の形で心の葛藤を行動に変える。
❤️🔥 性愛化(Sexualization)
定義:
本来は別の情緒(怒り、依存、愛情)を、性的な感情や行動にすり替えること。
🧪 例
セラピストに依存や安心を感じる中で、その感情を恋愛・性愛的なものに変形。
治療開始と同時に、無意識に別の人と性的関係を結ぶことで、セラピストとの関係から目をそらす。
セラピストに好意があると伝える代わりに、露出の多い服装や挑発的態度で表現。
🔄 精神分析的セラピーの基本的スタンス
❌ セラピストは「How to(どうすればいいか)」は教えない
精神分析では、クライアントに「こうすればいい」「こう行動しなさい」とは言いません。
なぜなら、問題の本質は行動レベルではなく無意識的な心のパターンにあると考えるからです。
✅ 伝えるのは「What(何が起きているのか)」
セラピストは、クライアントとの**相互関係(セラピスト—クライアント関係)**の中で起きていることを観察します。
その中で、「今この場面でどんなことが起きているか」「なぜそれが起きているのか」を解釈という形で伝えます。
🌱 精神分析的セラピーにおける「変化」とは?
① 洞察(Insight)
セラピーを通してクライアントが「何が自分の内面で起きているのか」「なぜそれが起きているのか」「どういう過去が関係しているのか」をより広く、深く理解すること。
この洞察は、問題の背後にある無意識の力動(欲動、不安、防衛)を明るみに出し、変化の土壌になります。
② セラピストとの「新しい体験」
クライアントは、過去の記憶(たとえば「人に頼ったら裏切られる」など)に基づいた予測で人と関わっています。
しかし、セラピストがその予測通りには反応しないことで、「人間関係って本当はこういう可能性もあるんだ」と気づく体験をする。
これを「関係性の内在化」と呼び、実際に新しい対人関係モデルが心の中に形成されていきます。
③ 記憶された物語の書き換え(事後作用=Nachträglichkeit)
セラピストとの関係性での再体験を通じて、過去の体験の意味が変わる。
たとえば「私は愛されなかった子ども」から「愛されなかったと感じていただけかもしれない」と見直される。
これを**「事後作用」**と呼び、記憶の再構築が心理的変化を生むプロセスとされます。
④ how toは後からついてくる
洞察を通じてクライアントの心の構造が変わることで、自然と行動も変わってくる。
つまり、変化は技術的なアドバイスではなく、内面の変化に根ざす。
⑤ しかし…容易ではない(反復強迫の壁)
クライアントは無意識的に過去の傷つきを繰り返すような状況を自ら作り出す(反復強迫)。
これは無意識の「やり直し」や「解決したい」という欲求によるもので、しばしば変化を妨げる。
セラピーでは、この反復の構造を言語化し、意識化していくことが非常に大切になります。
🌟 転移と逆転移:必然的に生じる人間関係のダイナミクス
1. 転移:過去の体験が現在に影響を与える
転移は、クライアントが過去の重要な人物(多くは親や初期の養育者)に対する感情や態度を、セラピストなど現在の人物に無意識的に投影するプロセスです。
例:「セラピストが無意識的に父親のように感じる」「セラピストの言動が過去のトラウマを再激化させる」
転移は、セラピーにおいて非常に重要な要素であり、クライアントの過去のパターンや未解決の問題を理解する手がかりになります。
2. 逆転移:セラピストの無意識的反応
逆転移は、セラピストがクライアントに対して無意識的に反応してしまうプロセスです。クライアントの転移に対して、セラピストは自身の過去の感情や未解決の問題が影響し、特定の感情を抱くことがあります。
例:「クライアントの強い依存がセラピストに対して過剰な保護欲を引き起こす」「セラピストがクライアントに過剰に怒りを感じる」
逆転移は治療において重要な情報を提供しますが、セラピスト自身が意識し、自己分析やスーパービジョンを通じて対応する必要があります。
🧠 転移と逆転移を扱うための枠組み
1. 枠組みの必要性
転移と逆転移を適切に扱うためには、一定の枠組みが必要です。枠組みとは、治療関係やセラピーの進行を規定する明確なルールや構造を指します。
例えば、時間、セラピーの場、セラピストの役割など。
白衣や医師、病院の権威など、治療関係が守るべき物理的および倫理的な枠組みが転移を適切に管理するためには不可欠です。
2. 枠組みの重要性
もし枠組みが不十分だと、治療の進行が滞ることになります。セラピストがクライアントに対して不適切な対応をしてしまったり、逆転移に巻き込まれてしまう可能性もあります。
第三者性(セラピストとしての距離感)や倫理、節度もこの枠組みの一部であり、これらが守られないと、治療が適切に進まなくなることがあります。
🔄 精神分析的視点を保つための努力
1. 力動的な視点
力動的視点を保つことは、転移と逆転移を理解する上で非常に重要です。クライアントがどのように過去の経験を現在の人間関係に投影しているのかを理解し、それに対して適切に対応するためには、セラピストが常に無意識的な動きに注意を払うことが必要です。
2. 第三者的な視点
セラピストが自分自身の感情に巻き込まれすぎないようにするためには、第三者的な視点が不可欠です。
カンファレンスや個人分析、**スーパービジョン(SV)**などを通じて、自分の感情や反応を意識し、適切に処理することが求められます。
セラピスト自身がこのような視点を持つことが、クライアントの転移を正しく解釈し、逆転移を管理するために重要です。
指示・訓練・教育
⇩
カウンセリング(受容・共感・自己一致)
⇩
支持的心理療法(サポーティヴ・サイコセラピー)
⇩
精神分析的心理療法(力動的心理療法)
⇩
精神分析
こころの中にある複数の力(欲求、理性、道徳など)がせめぎ合い、妥協を経て行動が生じるという考え方です。
🧠 ボウルビィの「母親からの分離に対する反応」:三段階モデル
◆ 第一段階:抗議(Protest)
特徴:泣く、叫ぶ、追いかける、怒るなどの行動。
意味:愛着対象(母親)を取り戻すための本能的行動。
精神力動的視点:
自我がまだ未熟な子どもにとって、母親は**「安心の源」そのもの**。
ここでの抗議は、**見捨てられ不安(separation anxiety)**の噴出。
子どもはまだ「母親が戻ってくる」ことを信じている。
◆ 第二段階:絶望(Despair)
特徴:活動性が落ち、無気力になり、沈黙する。
意味:母親は戻ってこないという事実に直面しつつある。
精神力動的視点:
感情の「麻痺」あるいは「感情の引っ込み」が起こる。
抑うつ的ポジション(メラニー・クライン)への移行。
自我は「喪失」の事実を処理しようとしているが、痛みが大きすぎる。
◆ 第三段階:否認・引き離し(Detachment / Denial)
特徴:母親が戻ってきても冷たく接する、一見平気な様子。
誤解されやすい点:
外見的には「回復したように見える」。
実際は「感情との断絶、防衛による適応」。
心理的機能:
a) 苦痛の回避(抑圧・解離・回避防衛)
b) 再度の喪失から自分を守る(予防的な「情緒の切断」)
c) 怒りの表出(「愛されなかった」ことへの報復)
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